建築家と創る家 M様邸

梅雨の晴れ間、甲府盆地の空がふいに澄み、稜線の向こうに富士の姿が浮かびました。雨に洗 われた緑が濃く、軒先を伝う雫の音が、夏の入り口を静かに告げています。
M様邸の家づくりは、ひとつのテーマから始まりました。「富士山を暮らしに取り込んだ、快適な平 屋」。非日常を求めるのではなく、一日の終わりに帰りたくなる家。肩の力がふっと抜け、安心し てほっとできる住まいを——。その願いが、計画の背骨を静かに貫いています。
設計でまず向き合ったのは、富士山との距離の取り方でした。あの稜線を暮らしの風景として迎え入れながら、外からの視線はやわらかく遮る。庭は、開くところと閉じるところの「境界」を丁寧 に編み、富士を望む心地よさと、守られた安心を両立させていきます。住まいの中心には、ご家 族が自然と集うアイランドキッチンを。玄関とシューズインクロークをつなぐ二つの動線が、帰宅の所作をなめらかにほどき、暮らしの回遊を生みます。IHとエコキュートが支える静かな快適さは、語らずとも日々に寄り添う土台となるはずです。
平屋の低い佇まいに、富士の借景が重なる日を思い描きながら。M様ご家族の「ほっとできる時 間」を、これから一歩ずつ、形にしてまいります。

蝉時雨が少しずつ薄れ、夕暮れの訪れが早くなりました。甲府盆地の暑さの底に、秋の気配がひとすじ差し込む頃。M様邸は、図面を前にした打ち合わせの季節を迎えています。
この日のテーマは、コーディネート。壁や床の色を選ぶより先に話題にのぼったのは、「天井をどう扱うか」でした。
光を、天井から降ろす
勾配天井の傾きを生かし、あかりの器そのものは視界から隠します。光源を見せず、光だけを届 ける——間接照明が天井面を撫でるように広がり、夜のリビングをやわらかく満たします。手元を くっきりと照らす明るさではなく、家族の輪郭がゆるやかにほどけていくような、静かな陰翳。「安心してほっとできる家」という願いは、あかりの選び方にも宿ります。
カーテンにも、同じ考えが通っています。窓枠の高さに合わせるのではなく、天井から床まで一枚に垂らす。上下をひと続きに見せることで視線は自然と上へ導かれ、勾配天井の伸びやかさが 室内いっぱいに広がります。窓辺に落ちる光を受けて、布は朝と夕とで表情を変えていくはずです。
夏の名残がほどけたら、いよいよ現場が動き出します。次は、土に鍬を入れる頃に、また。



